●宗祖御命名の寺号「佛日寺」



 『端山正和尚紀年録』の寛永7年の頁に、「邑(麻田)東天王山麓建一禅刹扁松隣寺延仙渓和尚住焉」、同承応3年の頁に、「移于松隣寺於同郡畑・・・・・」、同万治2年の頁に、「擴充松隣寺招隠元禅師觀光山號摩耶寺改佛日・・・・・」と記録されている。 宗祖隠元禅師の来朝以前、つまり佛日寺の前身とも言うべき松隣寺が寛永7年、青木重兼公2代麻田藩主の24歳の年に創建されている。その後、松隣寺が現在の地に移転されたのが承応3年、青木重兼公2代麻田藩主の48歳の年である。そして、万治2年、青木重兼公2代麻田藩主の53歳の年に松隣寺から現在の摩耶山佛日寺に改名されたのである。その寺号の命名が宗祖隠元禅師の御高意によるものであり、その真筆が現存している。

 宗祖隠元禅師が「佛日」と命名された所以を『普照国師広録』を繙くことにより、宗祖の御心底を推し量ることができる。その全文を次に掲載し、さらには書き下し文に改め、口語訳を付記する。


 普照国師広録巻23の11頁
《原  文》
  「佛日寺 
 巳亥仲春端峰居士於摩耶峰下搆精舎成 請余遊觀兼安佛座題額 是日也天開氣朗紅光亘赫 兩國師僧  共曾一處 可謂奇縁勝遘耳 乃榜日佛日 ◆後擴充禪席廣脩浄業不孤始創之本願也
 偈日
摩耶誕佛日 瑞光映諸夏 覩影臨光時無不清浄者 我心同佛心 我願同佛也 杖藜所到處卻無點塵惹  逆順本如如 行藏倶風雅 一念萬斯年 奚取復奚捨 能登不二門非眞亦非假 一榻空無餘筆舌●冩 爲 法可忘身 眞金烹大冶 愈煉愈光輝 無住無可把 是名眞佛日廣■普天下」

=人べんに尚 =暮れるの日の所が手になる ■=火へんに召


《書き下し文》

  「佛日寺
  巳亥の仲春、端峰居士、摩耶峰下に於いて精舎を搆へて成る。余を請して遊觀し兼て佛座を安じ、額を題せしむ。是の日なる也、天開氣朗にして、紅光亘り赫きたり。兩國の師僧共に一處に曾す。奇縁勝遘〔逅〕と謂ふべきのみ。乃ち榜して佛日と日ふ。◆に後、禪席を擴充して、廣く浄業を脩せば、始創の本願に孤かざるなり。
 偈を日ぶ。
摩耶佛日を誕す。瑞光諸夏に映ず。影を覩、光に臨む時、清浄ならざる者無し。我が心、佛心に同じ。 我が願ひ佛に同じきなり。杖藜到る所の處、卻〔却〕って點塵の惹く無し。逆順は本、如如。行藏は倶に風雅。一念萬斯年。奚をか取り、復た奚をか捨てん。能く不二門に登れば、眞に非ず、亦假に非ず。 一榻空しくして、餘り無くば、筆舌●冩し難し。法の爲に、身を忘るべし。眞金、大冶に烹る。愈々煉りて、愈々光り輝く。住まること無く、把るべく無し。是れ眞の佛日と名づけ、廣く普天の下を■すものなり。」

=人べんに尚 =暮れるの日の所が手になる ■=火へんに召


《口語訳》 

  「佛日寺
 1659年(万治2年)2月、己亥の仲春、麻田藩主2代青木重兼公こと端峰(山)居士が、我孫子(池田市畑1丁日)摩耶山の地に寺院を建立しました。その堂宇が完成した時、私(隠元禅師)を招いて、遊觀を兼ねて仏座を奉安し、扁額の題書を依頼されました。この日は、まことに天高く晴れ渡り、陽気にあふれており、陽光が明るく輝きわたっておりました。日中両国の師僧が、ともに一堂に会したのです。まさに、不思議な縁、すぐれた出会いと言わずして何と言えましょうか。そこで、扁額にあらわして佛日と名付けたのです。もし、以後、禅苑を拡充し、広く浄業を修めましたら、それは、この佛日寺を祝国開堂した本願に背くものではないといえましょう。
 仏徳の賛嘆をのべます。
摩耶夫人が佛(釈専)をお誕みになった時、めでたい光が世界中に照り映えました。そのように、摩耶山に佛日寺が建立されたのです。そのお姿を見、光を見る時、一つとして清浄でないものはなかったのです。私の心は佛の心に同じであり、私の願いは仏の願いに同じなのです。あかざの杖をついて行脚し、到達した処には、かえって、細かい塵がまつわりつくことはありません。逆らうことと、順うことは、もともと思慮の分別を加えないありのままの姿であります。世に出て道を行うことと、世から退いてかくれることとは、ともに風雅の道であります。刹那一念の心には、万年の歳月を包含すると申します。 一体、どちらを取って、どちらを捨てましょうか。どちらを取っても同じことではないでしょうか。本体と現象は別のものではなく、現象のうちに本体が含まれるという中道の教え、真空を悟ることができたならば、それは、本物でもなく、また、にせ物でもありません。一つの寝台を空にして余す所がなければ、筆舌でまねてうつすこともできません。佛法のために、自我を捨てて、自身を忘れなければなりません。鉄を鋳鉄工に煮さして、ますます精煉して、ますます光り輝きます。それは、とどまることを知らず、手に把ることもできません。これが真の佛日と名付け、世の中のすべてを照らす所以のものであります。」