●下載清風

55.平成26年9月23日(火) 秋季彼岸会の一席
 演題「下載清風」 住職(服部潤承)

 
 今年は、異常気象なのでしょうか。秋のお彼岸には、境内一面に白いたますだれが、お参りの皆さんをお出迎えいたしましたが、今年は既に咲き終わってしまいました。草木も色づき始め、緑から黄色に変わってまいりました。朝晩もめっきり涼しくなり、人の装いにも秋を感じるように思います。
 ところで、4月16日に、韓国船「セウォル号」が韓国南西部の珍道付近の海で沈没し、多くの若い乗客が亡くなりました。事故の原因は、暗礁に乗り上げ座礁・沈没しました。現場は、暗礁が多く、海難事故が多いところだそうです。
 「セウォル号」は、霧のために3時間遅れで出航しました。船長は入港を急ぐために、航路を変更して座礁しやすい海域に舵をとりました。日本には、「急がば、まわれ」という格言があります。
 座礁して沈没まで2時間、乗組員はその間、何をしていたのでしようか。あの有名な北極での海難事故に遭遇した「タイタニック号」では、乗組員が最後の沈没まで避難活動の任務に努力していました。ところが、「セウォル号」では、最初の脱出者が一番に責任のある船長で続いて乗組員でした。乗組員は1名を除いて全員救助されました。乗客を見捨てて脱出している様子を世界中に報道され、非難囂囂でありました。一目散に逃げ出した船長と乗組員が責められるのは、当然でありますが、その中で最後まで救助を続けた22歳の女性乗組員がいました。
 「セウォル号」が沈没した事故から一夜明けた17日、最後まで船に乗って乗客の脱出を手助けして、死亡した女性乗組員「パク・チョンさん」の勇気ある行動を称える論調がインターネット上に配信されました。-----チョンさんは、「セウォル号の浸水が始まると、すぐにライフジャケットを学生たちに渡し、避難を呼び掛けました。------
 救助された女子高生の一人は、「三階のロビーでお姉さんが、学生たちにライフジャケットを手渡している姿を見ました。お姉さんは着けないの≠ニ聞きますと、乗組員は1番最後!友達を全員助けた後に、私は行くから≠ニ話していた」とのことであります。
 別の男性客も、「3階にいた女性乗組員は、最後まで避難誘導をしていました。そして、生徒達に先に行きなさい≠ニ大声で叫んでいました」と彼女の最後の姿を語りました。どのような緊急事態が発生しようとも、周りに流されず、パニックを起こさず、最後までやるべきことを全うすることを教えられました。
 一方、この船舶会社のオーナーは、新興宗教の教祖でもありました。当局側の救援活動・捜索活動や調査にも協力せず、多くの信者に守られ、挙句の果てには行方をくらましてしまいました。その後、韓国南西部の海岸に近い草叢で、靴を揃え、空の酒のビンが転がっているところでひっそりと亡くなっていたそうであります。
 「セウォル号」の沈没の要因は、何と言っても積載オーバーと積荷が固定されなかったための荷崩れによる船体の重心が変わってしまった≠アとにあるようであります。そこで、本日のテーマ『下載清風(かさいのせいふう)』に入りたく存じます。

 中国の宋時代の禅の語録に『碧巌録』があります。その45則に、
「如今 抛擲す 西湖の裏。下載の清風 誰にか付与せん」とあります。
 口語訳をしますと、
「面倒臭い荷物は、今、西湖に投げ捨てて、身軽になった。その上に追い風、この順風に乗って家に帰る心地よさは、誰が解ろうか。いや、誰も解らない。それは自分にしか解らないだ。」と言うのであります。
 ここに出てくる「面倒臭い荷物」とは、一体何でしょうか。それは、
1分別からくる先入観・気負い・不安定な感情や気持ち
2苦しみからくる迷い・不安
3迷いや不安からくるこだわり・嫉妬心・執着心
4守りからくる地位・名誉・資産・収入・見栄・プライド・意地
5過去の嫌な思い出からくる悔しさ・恨みなどであります。この多くの「腹に、いちもつ。背に、にもつ。」を下したとき、無心という最上の心の状態が自然に湧き出るものと思います。
 近頃、『断捨離』が流行しております。部屋を片付けて不必要なものを思い切って捨ててしまうことであります。究極のシンプルライフであります。
 物だけでなく、心も『断捨離』が必要かもしれません。心の『断捨離』こそ『下載の清風』と言えましょう。心の中に、重く積み上げた荷物を思い切って捨てて、身軽に生きたいと思います。ご清聴ありがとうございました。



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