●朝三暮四

令和7年10月掲載

 ※原文は縦書きのため漢数字で表記しております。

 インド仏教の僧である龍樹(ナーガールジュナ)による摩訶般若波羅蜜経の注釈書『大智度論』に、“嘘をつくことの十の罪”が次のように残っています。

仏が説きたまうが如く妄語に十罪あり。何等をか十と為す。

 一には口気臭し。

 二には善神これを遠ざかり、非人、便を得。

 三には実語ありといえども、人、信受せず。

 四には智人謀議して常に參預せず。

 五には常に誹謗せられ、醜悪の声周天下に聞こゆ。

 六には人の敬せざる所にして、教勅ありといえども、人これを承用せず。

 七には常に憂愁多し。

 八には誹謗の業因?を種。

 九には身壞れ命終りてまさに地獄に墮すべし。

 十にはもし出でて人と為りては、常に誹謗せらる。

要点をまとめますと、

 ●常に他人から誹謗中傷を受け、誹謗中傷の業を重ねる因縁となる。

 ●醜悪な評判が天下に広まり、教えを説いても誰も聞き入れない。

 ●人が敬わず、常に憂いが多い。

 ●命が終われば地獄に堕ちる。ということになります。

 さて、十八羅漢の一人に羅ゴ羅(らごら)尊者がおられます。 この方はお釈迦様の息子でラーフラと名付けられ、小さい頃は 嘘をついて人々を惑わしていたという話が残っています。
 お釈迦様に会いに来た在家の方が、ラーフラにお釈迦様の場所を聞いた際、
 竹林精舎におられる時には「霊鷲山(りょうじゅせん)におられます」と答え、霊鷲山におられる時には、「竹林精舎におられます」と答えたのです。そのうち彼は信用を失い嘘つきラーフラと呼ばれるようになりました。噂を耳にしたお釈迦様は次のように諭されます。
 お釈迦様は、桶に水を汲ませて足を洗われた後、「ラーフラよ、この水は飲めるか」と問われます。
 「いいえ、この水はもとは綺麗でしたが、足を洗われましたので、汚れて飲むことはできなくなりました」と答えます。
 「そうだ。ラーフラよ、お前も同じである。せっかく出家して清らかな道を歩みながら、嘘をついて人を困らせ、それを喜ぶという汚れた心になってしまっている。では、その水を捨てるがよい」と言われました。
 ラーフラは言われた通り、水を捨てると
 「そなたはこの桶に食べ物を盛って食べられるか」
 「いいえ、汚れた水を入れてありましたので、食べ物を盛ることはできません」
 「そなたもこの桶と同じである。口に誠がなく、精進しようと思わなければ、この桶のように用いることはできない」
 そして、お釈迦様は桶を蹴飛ばします。
 「そなたは桶が壊れるかと、気にしたか」
 「いいえ、高いものではないので気にしません」
 「人をだまして喜んでばかりいる者は、この桶のように周りから気にされず、惜しまれず、悟りも開けず、死ねばひとりぼっちで三悪道を迷い、限りない苦しみを受けるだろう。ラーフラよ、言葉を慎め。罪は妄語からあらゆる悪に及ぶ。」
 このようにして、父であるお釈迦様からの喝で、ラーフラは厳しく戒律を護り続け、修行に励んだために、やがて十大弟子の一人に数えられ、「密行第一」と言われるようになりました。(「密行」とは、人が見ていないところでも戒律を護り続けることです。)


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