●平安

90.令和6年3月20日(水) 春季彼岸会の一席
 演題「平安」 住職(服部潤承)


 今日は。お目にかかるのは、半年前の秋のお彼岸ぶりですが、いかがお過ごしでしょうか。今年は地震と伴に明け、石川県能登半島地震で241名の尊い命が失われました。それに加え災害関連死15人、この度の被災者を悼み、去る2月12 日(月)の涅槃会に併せ追悼をいたしましたところ、心温まる震災義捐金をお供えいただき、当日の尺八献納の謝礼と参拝者のお供養(花供養)費用を除きました残りの61256円を石川県令和6年能登半島地震災害義援金口座に振り込みました。皆様にご協力の御礼を申し上げるとともに、今年の涅槃会が無事終わりましたことをご報告いたします。

 ところで、3年に亘り、悩まされましたコロナウイルスも弱毒化し、4月からワクチン等の医療費が有料になります。自分の事は自分で感染予防をしなければなりませんし、健康管理には一人一人が心掛けなければなりません。

 話は変わりますがロシアがウクライナに侵攻して2年が過ぎます。ウクライナの領土がクリミア半島に続き、東部・南部が少しずつ減少しているのがわかります。このままでは、いつの間にかウクライナと云う自主独立していた国が無くなるかもしれません。ウクライナはかつて核保有国でありました。周辺諸国はウクライナを何があっても守るからと云う約束のもとウクライナに核を放棄させたようです。ウクライナが核保有国のままであれば、また違っていたかもしれません。

 日本でも、昭和20年8月15日終戦を迎えました。その直後、ソ連(今のロシア)は北方領土(択捉・国後・色丹・歯舞)に侵攻し、現在も実行支配しています。今やお墓参りもできなくなっています。これでは、日本は到底平安と言えないでしょう。日本はかつて全方位外交を展開していました。今や偏りが生じ、平安が損なわれているかもしれません。

 イスラエルを見ますと、ハマスのテロに始まり、周辺諸国まで紛争が拡大しています。イスラエルからパレスチナ人を「締め出すこと」が狙いのように思いますが、ハマスの奇襲攻撃と人質奪還を理由にハマスを撃退しているかのようにみせかけ、パレスチナの一般市民まで巻き添えに病院や学校まで爆撃し、今や数ヶ月で31.000人の死者が出ています。

 日本もかつて昭和16年、予告なしで真珠湾攻撃をしたという言いがかりとも思えるような理由で太平洋戦争がはじまりました。東京大空襲(無差別爆撃)115,000人・広島原爆投下140,000人・長崎原爆投下73,000人・沖縄地上戦188,000人の尊い命が奪われ、戦争は終わりました。

 地獄の苦しみ、餓鬼のむさぼり、畜生の身勝手、修羅のあらそい、人の貪欲、天の思い上がりは、世の平安を損ないます。

 今年の NHKの大河ドラマは「光る君へ」で、源氏物語の作者紫式部の生い立ちがテーマ です。そこで平安時代の大作「源氏物語」の紹介をいたします。

 帝(桐壺の帝)とあまり身分の高くない母(桐壺の更衣)との間に生まれた光輝くばかりの容姿と、優れた才能を持った第二皇子(光源氏)を主人公とする物語です。

 母(桐壺の更衣)は光源氏三歳の時に亡くなり成長するとともに母(桐壺の更衣)に対する深い追慕の念をもって理想の女性を探し求める恋の遍歴に上りました。多くの女性とご縁を持ったがその一つが原因となって、光源氏は自分から須磨へ退去しなければならないはめに陥りました。その後、許された光源氏は帰京し、春宮(冷泉院・実は光源氏と藤壺の中宮・・義母の間に生まれた御子)が即位されて、光源氏は太政大臣から太政天皇に準ずる位を得、最愛の妻、紫の上をはじめ、かつての女性たちの世話をして満ち足りた生活を送ります。

 光源氏は四十歳の賀を迎える頃にいよいよ栄華の地位をきわめ、朱雀院(義母兄)の依頼で、その皇女・女三の宮を妻とすることになります。ところが、光源氏の妻女三の宮と柏木の中将との過失によって薫の宮が誕生するという事実により、かつての藤壺の中宮(義母)と光源氏との過失の報いを受けることになりました。これを悪因悪果・善因善果・因果は回ると申します。

 朱雀院(義母兄)の崩御、良心の呵責に悩んだ柏木の中将の悶死、女三の宮も出家と続いて、光源氏は限りない悩みの中に追い込まれ、最愛の妻紫の上の死を見送って、間もなく自分自身の死を迎えるのであります。

 山城の宇治を舞台としているため、宇治十帖と呼ばれます。出生に暗い宿命を負った光源氏の妻女三の宮と柏木の中将の間の子薫の宮を主人公とし、光源氏と明石の上の間に生まれた娘、明石の姫君の子の兵部卿の宮(匂宮)を副主人公として、宇治の八の宮(光源氏の異母弟)の大君・中君・浮舟をめぐる恋愛の葛藤を織りなしたもので、浮舟は二人の男性(薫の宮と兵部卿の宮・匂宮)の間で悩んだ果てに宇治川に投身(入水自殺)しようとしたが果たせず、仏門に逃れて再び会おうとはしませんでした。薫の宮は息苦しい暗い宿命に思い悩むのであります。源氏物語の作者紫式部(NHK大河ドラマでは「まひろ」)は、複雑の人間関係を通じて、愛でもなければ、お金でもない。もちろん身分や権力でもない。静かな心の平安を仏門に求めることを理想としたのでありましょう。



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