●閑古錐

86.令和4年9月23日(金) 秋季彼岸会の一席
 演題「閑古錐」 布教師 住職(服部潤承)


 朝晩は随分、涼しくなりましたが、日中は残暑が厳しく夏の様相です。お変わりございませんでしょうか。秋のお彼岸も2部制にして、密を避けコロナウイルスオミクロン株BA5の感染を予防いたしたいと思います。第7波も衰えを見せていますが、亡くなる方が非常に多い反面、行動制限が無くなり、海外からの入国制限も緩和されています。オミクロン株BA1のワクチン接種が始まりましたが、感染予防には今まで以上に気を付けなければなりません。と言うのは、最近、岡山大学・豊橋技術科学大学がコロナウイルスの「持続感染」について、発表がありました。「コロナウイルスに感染すれば完治しない患者が多く、ずっと感染が続く」「コロナウイルスに感染したら長期に内存し10年後20年後再発する可能性があるかもしれない」と、ウイルスが体内から完全に除去されず、「持続感染」する可能性が示されています。感染しないように予防に努めるとともに、体力を温存し、免疫力を高め、免疫力を下げるようなストレスの少ない生活をおくられることをお奨めいたします。

 去る7月8日、阿倍晋三元首相が奈良に於いて、凶弾に倒れました。67歳でした。7月12日、増上寺にてお葬儀が厳かに営まれました。お戒名は紫雲院殿政誉清浄晋寿大居士でした。謹んでお悔やみ申し上げます。久々に院殿大居士のお戒名を拝見いたしました。来る9月27日には「国葬儀」が営まれます。禅の僧籍にある者として厳粛に営まれることを祈念いたします。

 「嚢中(のうちゅう)の錐(きり)」と言う言葉があります。錐は袋の中に入れてもその先が突き出ることから、才能のある者は凡人の中にあっても、自然にその真価があらわれることの例えです。その錐にまつわる禅語があります。それが本日の演題「閑古錘(かんこすい)」であります。白隠禅師の『毒語心経』に、「徳雲(とくうん)の閑古錐(かんこすい)、幾(いく)たびか妙峰頂(みょうぶちょう)を下(くだ)る、他(た)の痴聖人(ちせいじん)を傭(やと)って、雪を擔(にな)って共に井を?(うず)む。」とあります。

 口語訳をいたしますと、「徳雲と言う修行者は、たびたびお悟りの世界である妙峰山からこの娑婆世界に下りて来て、自分と同じ他の愚に徹する聖人を恃んで、共にせっせと雪を運んで井戸を埋めるような全く徒労なことをした。」と言う意味であろうかと思います。

 「徳雲」は、華厳経入法界品に出てくる修行者のことで、善財童子が参じた53人の善知識の一人で、先程、「三宝讃」と言う節経をあげましたがその中に、「善財童子五十三参(善財童子は その昔 53所の 善知識 海山越えて いやはてに 訪ねて道を 修めたり)」と、出てまいります。

 「閑古錐」の「閑」は静かに落ち着いている。「古錐」は、古くなって先の丸くなった錐のことで、永年使いこまれ、黒光りをし、何とも言えない趣や存在感があり、鋭さもやわらぎ決して人を傷つけることがありません。飄々とした悟後の修行の境涯を思わせます。

 すぐに融けて消えてしまう雪を一所懸命に運んで、井戸を埋めようとする「徒労」を無駄骨・無駄飯と一笑に付すのではなく、「何か意味があるのではないか」と『無意味の意味』を考えるひと時を持ちたいと思います。



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