●生きる姿こそ供養

42.平成23年8月22日(月) 地蔵盆の一席
 演題「生きる姿こそ供養」  住職(服部潤承)

 
 今年の地蔵盆は、暑い日が続いたせいか、今日は涼しく感じられます。
 さて、皆さんがご存じの通り、電力会社がテレビ・ラジオ・新聞を通じ節電を訴えています。その一方、熱中症にも注意しましょうと付け加えています。まるで、禅問答であります。
 熱中症に罹らないように、冷房を強めますと電気がいりますし、冷房を切って節電すると、熱中症に罹り病院に運ばれたり、場合によっては死亡したりすることがあります。
 皆さんはどのようにされましたか。萱野三平は、「忠ならんと欲すれば、孝ならず、孝ならんと欲すれば、忠ならず。」と言って死んで行きました。このような時には、命の無事を基準にするのが宜しいかと思います。
 京都の五山の送り火に、陸前高田の松の木を使うか、否か。が二転三転しました、当初、保存会は東日本大震災の犠牲者を悼んで、陸前高田の名勝であった松林が津波に薙ぎ倒され廃材になってしまった、それを、送り火に使って供養することが呼びかけられました。陸前高田では祈りの言葉・追悼の言葉が書かれ、送り火の準備が進められていきました。
 ところが、京都では供養とは言え、燃やすことにより放射性物質が飛散拡散し、環境や健康に影響するのではないかと懸念され、急遽中止となります。  しかし、放射性物質が検出されなかったら使っても、よいのではないかという意見がたくさん寄せられ、陸前高田の松の木を送り火に使うことになります。
 いよいよ送り火用の松の木が届けられ、その表皮の放射線量を測ってみると、放射性物質が検出され、とうとう五山の送り火に陸前高田の松の木が使われなくなりました。
 そこで、陸前高田で書かれた祈りの言葉・追悼の言葉をコピーして、京都で調達した送り火の護摩木に1つ1つ丁寧に書き写され、かくして京都五山の送り火は紆余曲折がありましたが、こと無きを得て実現したものと思います。京都は1200年の歴史と伝統、幾多の災禍をくぐりぬけて来た古都、なかなか強かであります。受け継がれた知慧の宝庫とも言えるでしょう。
 京都での問題は収束しましたが、その陸前高田の護摩木を成田山真勝寺が引き取るそうです。そして、表皮を剥ぎ取り、放射性物質が検出されなければ、お焚き上げをすると言うことです。どうなるか、行く末を見守りたいと思います。
 広島にある原爆ドームの錆た鉄骨の風景とこの度の福島にある原発の建屋の風景が、どこか似かよっています。どうも66年前の広島・長崎の原爆投下により、日本人の意識の奥底に、放射性物質へのアレルギーが根付いたように思います。
 ところで、政府の原子力災害対策本部は、8月17日、福島県の子ども約1150人を対象にした甲状腺の内部被ばく検査をして、45パーセントが被ばくしていることを発表していました。検査時に、その場で「健康に影響はない」と結果が保護者らに伝えられました。また、保護者対象の説明会で、対策本部原子炉力被災者生活支援チームの福島靖正医療班長は、「問題となるレベルではない」と説明しています。
 しかし、対策本部は当時18歳以下の県内の子ども36万人に対して、福島県が一生涯続ける予定の甲状腺の超音波検査への協力を呼びかけています。もしもの場合を想定したものでありましょう。
 日本と同じ敗戦国でありますドイツは、まったく原発に依存していません。しかし、被曝国の日本が、戦勝国アメリカやフランスのように、熱効率がよいとか、安価とか言うことで原発にいつまでも依存するのは、性懲りがないと言わざるを得ません。日本人の優秀な頭脳を結集すれば、新しいエネルギー源が開発されることでしょう。ちょうど白熱電球がLEDに、ガソリンエンジンがハイブリッドに変わっていくように。
 今日は佛日寺の地蔵盆です。今は亡き人に対しての供養の日でもあります。
 仙台市若林の僧侶、丹野峯稔さんが供養について語っています。
 朝日新聞、8月12日(金)の朝刊に、
 津波で、多くの知人を亡くした。「自分にできることが何かあるのか。」と思い乱れたのは、仏教者たる丹野さんも同じだった。
 一時、救援物資を地元に送る活動もしたが、気持ちは満たされなかった。震災一ヵ月後、被災地の片隅に卒塔婆を立て、手を合わせた。気持ちが落ち着いていくのがわかった。以来、節目の日には同じ場に立つ。
 「結局、何かをすることで、自分自身も救われたかったんだと思います。」と丹野さんは言う。
 自分はたまたま助かってこうしていられる。とりあえずできることは、一生懸命に生きることだと。生きている姿を見せることが、亡くなった人の供養になるんじゃないかって。それは坊さんだからではありません。きっと、 「一生懸命に生きている姿を見せることが供養になる」というフレーズは名言になることでしょう。



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